【一言でいうと】
BIPとは、ビットコインに新しい機能やルールを追加・改善するための「提案書」のことです。
身近な例でいうと、マンションの住人が「ゴミ出しのルールをこう改善しよう」と掲示板に提案するイメージです。
【基礎解説】
ビットコインは中央管理者がいない「分散型システム」です。つまり、誰か一人の判断で新しい機能を追加したりルールを変えたりすることはできません。そこで登場するのが「BIP（Bitcoin Improvement Proposal）」です。
BIPは、開発者やコミュニティのメンバーが「こんな改善をしたい」という内容を文章にまとめ、広く公開する仕組みです。提案内容には、技術的な詳細だけでなく、どんなメリットがあるのか、なぜ必要なのかが書かれています。
例えば、住所変更の届け出を役所に出すとき、ただ「変えたい」と言うだけでは通りませんよね？「理由」「方法」「影響範囲」をしっかり伝える必要があります。BIPも同じで、ただのアイデアを形にして、コミュニティ全体で検討するための“公式な提案書”なのです。
実生活でたとえると、自治体の「条例改正案」に近いものです。誰かが提案し、それを市民や議会が検討して、賛同が得られれば新しいルールとして導入される。ビットコインの世界では、開発者・マイナー・ユーザーといった関係者全員が「条例審議会のメンバー」になるわけです。
【重要性とメリット／デメリット】
メリット
- 透明性の確保：誰でもBIPを読むことができ、改善の議論に参加可能。閉ざされた組織ではなく、オープンな議論が行われる。
- イノベーションの促進：BIPがあることで新しい機能（例：SegWit、マルチシグ、アドレス形式の変更など）が追加され、ビットコインが進化してきた。
- 合意形成の仕組み：分散型システムで重要な「みんなで決める」方法を制度化している。
デメリット
- 合意形成の難しさ：提案が受け入れられるには、開発者・マイナー・ユーザーの理解と賛同が必要で、時間がかかる。
- 複雑さ：一般ユーザーにとってはBIP文書が難解で、理解が追いつかない場合もある。
- 分裂リスク：合意できない場合、ハードフォーク（通貨の分裂）が起こることもある。実際にビットコインキャッシュ（BCH）はBIPをめぐる対立がきっかけとなった。
【実例・比較】
代表的なBIPの例
- BIP16（Pay-to-Script-Hash）：複雑な取引条件を簡単に使えるようにした仕組み。
- BIP32（階層的決定性ウォレット）：ひとつの種（シード）から多数の鍵を生成できるようにし、ウォレット管理を楽にした。
- BIP141（Segregated Witness, SegWit）：取引データの構造を改善し、処理効率を高め、Lightning Networkの基盤を作った。
類似技術との違い
イーサリアムでは「EIP（Ethereum Improvement Proposal）」という似た仕組みがあります。基本的な考え方は同じですが、イーサリアムはスマートコントラクトや多様な用途があるため、提案の幅も広いです。
つまり、BIPは「ビットコイン専用の改善提案書」であり、EIPは「イーサリアム版の改善提案書」と理解できます。
【技術的背景（上級者向け）】
BIPは、単なるアイデアではなく「正式なドキュメント」としてGitHub上に公開されます。提案は大きく以下のカテゴリに分かれます：
- Standard Track BIP：取引やブロックのフォーマット変更など、ビットコインの仕様に関わる提案。
- Informational BIP：技術的背景やガイドラインを示すだけの情報提供。
- Process BIP：開発プロセスや運用ルールに関する提案。
実際の流れは次のようになります：
アイデア → BIPドラフト作成 → コミュニティ議論 → 実装試験 → 合意形成 → 採用または棄却
この仕組みによって、世界中の誰でも提案でき、かつその履歴がすべて残ります。
ビットコインが長期的に持続可能である理由の一つは、この「オープンで透明な改善フロー」があるからです。
【まとめ】
BIPは、ビットコインを進化させるための「公開された改善提案書」です。
初心者にとっては「みんなで決める仕組み」、上級者にとっては「技術進化を支えるルールブック」と言えます。
BIPを理解することで、ビットコインがなぜ長年生き残ってきたのか、その強さの理由が見えてきます。
【関連用語（内部リンク用）】
- SegWit（セグウィット）
- マルチシグ（Multi-Signature）
- ハードフォーク
- EIP（Ethereum Improvement Proposal）
- ライトニングネットワーク